• 世界の孤児にならずに、事実上の核保有を実現する方法

トランプさんが、

「在日米軍を撤退させる可能性がある」
「朝鮮戦争にはかかわらない」
「日本の核保有を認める」

と発言した。それで、「日本も核保有を!」という話がこれからあちこちで聞かれるようになるでしょう。これは、「満州国問題」によく似ています。日本が満州に進出したのは、「ロシア(後にソ連)の南下政策を防ぐため」でした。ところが、満州に固執しすぎて、中国、アメリカ、イギリスも敵にまわしてしまった。それどころか1933年には、国際連盟を脱退し、「世界の孤児」になってしまった。

日本が核兵器を保有するとすれば、理由は、「中国と北朝鮮が持っているから」となるでしょう。核兵器保有を目指す際、口では「北朝鮮の脅威に備えるため」といいつつ、本音は「中国の脅威に対抗するため」となるはずです。

ところが、問題があります。日本は、「対中国」で核保有を目指したい。しかし、アメリカもロシアも欧州も、日本の核保有には反対するだろう(もちろん、トランプさんが大統領になり、「私は日本の核保有を断固支持する。安保理で制裁論議になったら、必ず拒否権を出して阻止する!」と公式に宣言してくれれば話は別ですが)。

核拡散防止条約(NPT)から脱退する必要があるので、190か国を敵にまわし、満州国の時同様、「世界の孤児」になる。もっとも本質を書けば、中国の脅威に対抗するために核保有を目指したら、アメリカと中国、両方敵になり、「反日米中同盟」が成立してしまう。こういう事態がもっとも恐ろしい。アメリカは、そういうことを平気でやる国です。たとえば、第2次大戦時、ドイツと日本をぶちのめすために、仮想敵ナンバー1のソ連と組みました。大戦が終わると、今度は敵だったドイツ(西ドイツ)、日本と組みソ連と対峙した。

  • ニュークリア・シェアリングとは?

ところで、「アメリカを敵にまわさず、世界の孤児にならず、事実上核保有を実現してしまう方法」があります。『日本自立のためのプーチン最強講義(集英社インターナショナル)』から一部転載してみましょう。
「ニュークリアシェアリング」で、中国に対抗せよ
「一番危険な仮想敵国は、中国」という話を第1章でしました。
日本で「核武装を主張する人たち」も、結局、最大の脅威は中国。次に同国の属国・北朝鮮。その次にロシアであることを同意してくれるでしょう。
「だから、日本も核を持て!」という論理ですが、それをやると、「中国どころか、アメリカ、欧州、ロシアも敵にまわしてしまう」という話をしました。
では、「核を持てない」日本はいったいどうすればいいのか? 第一のステップは、既述のように、日米安保を「片務」から「双務」にすること。そのために、「集団的自衛権を認めよう」と。
次のステップですが、「ニュークリア・シェアリング」(核の共有)という仕組みがあります。これは核兵器を持たないベルギー、イタリア、ドイツ、オランダがアメリカと結んでいる条約です。過去には、カナダ、ギリシャ、トルコも参加していました。
「ニュークリア・シェアリング」とは何かというと、右の4国は、有事の際、アメリカの核を使って反撃できるのです。そのため、この四国は日常的にアメリカの核を使って訓練をしています。
「集団的自衛権」を自らに認めることで、アメリカと対等な同盟国になりうる日本。アメリカと数年間信頼関係を醸成したうえで、「ニュークリア・シェアリング」を要求したらいい、と私は考えます。

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そのメンツを見てください。第2次世界大戦で、日本の同盟国としてアメリカと戦ったドイツ、イタリアが入っています。両国が「ニュークリア・シェアリング」に参加していることで、これまで「ドイツとイタリアでファシズムが復活している!」という批判はありませんし、これからも起こらないでしょう。ですから、日本が同じ決断をし、同じ行動を取ってもおかしくはありません。
次のメリットは、「ニュークリア・シェアリング」の場合、日本が単独で「核兵器保有」を目指すのと違い、「アメリカ」「欧州」を敵にまわすことがありません。よって、「国際的に孤立する」とか「国連で制裁を受ける」とか、「エネルギー供給を止められる」といった心配をする必要がないのです。
そして、最後のメリット。この「ニュークリア・シェアリング」によって、日本はアメリカの核兵器を利用することができるようになるので、中国の武力的圧力に対する強力な「抑止力」になります。これは、「自国は核兵器を保有しなくとも、核兵器保有国と同じ抑止力を持てる」というすばらしい仕組みなのです。
しかし、これはあくまでも現時点での話。既述のように、アメリカの衰退トレンドは止まりません。ですから、日本は、同国の衰えを補完するという名目で徐々に軍事的自立を成し遂げていくべきなのです。

  • ニュークリア・シェアリングの前にやるべきこと

この本を出したのは、2013年11月です。いい仕組みだと思いますが、ひとつ考慮しておくべき事実があります。
世界3大戦略家のルトワックさんや、リアリストの大家ミアシャイマーさんは、大昔から「中国がアメリカ最大の脅威になる」と断言していました。そして、アメリカが中国に勝つための重要ポイントは、「中国とロシアを分断し、日米側にひきいれよ」ということ。オバマさんは、「AIIB事件」後、ようやくロシアとの和解に動きはじめました。
この「ニュークリア・シェアリング」ですが、中国が猛反発するのはもちろん、現時点ではロシアも「大いなる脅威」と認識する可能性が高いです。そうなると、中国とロシアは、反米、反日でますます一体化してしまう。
日本がニュークリアシェアリングを目指すなら、その前にロシアがもはや日本を警戒しないレベルまで和解する必要がある。これ、いかにも「ロシア在住者」「ロシア寄り」の発言っぽいですね。その疑念はわかりますが、「対中国でロシアが最重要」と主張しているのは、ルトワックさんやミアシャイマーさんです。証拠として、ルトワックさんの超名著『自滅する中国』から引用します。
日本が引き続き独立を保っていられるかどうかは、反中同盟全体の強さに大きく左右されることになるからだ。(同上p187~p188)
衝撃的ですね。反中同盟が形成されない、あるいは脆弱な場合、「日本は独立を保てない」、つまり、「中国に実質併合される可能性もある」といっているのです。では、どうすれば、日本は勝てるのか?
もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、むしろそれが決定的なものになる可能性がある。(同p188)
というわけで、今回は、「米中を同時に敵にまわさず、事実上の核保有国になる方法」についてでした。今は、1930年代同様、大国間の関係がコロコロ変わっています。日本も大局を見ながら、「孤立しないよう」慎重に行動する必要があります。

image by: Shutterstock

『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯